山と言えば『本』です!
山小屋やテントでゆっくりとコーヒーを飲みながら登山本や山岳小説を読み漁り、山の世界に浸る方も多いと思います。
そんな登山&読書が好きな方に、一度は読んでもらいたい傑作を含めたオススメの山の本を、20代の頃には年間100冊ほど小説を読んでいた筆者が紹介します。
おすすめ山岳小説
孤高の人/新田次郎
昭和初期に実在した登山家加藤文太郎をモデルにした山岳小説。
当時、裕福な者だけが君臨していた登山界に、突如現れた不世出の登山家。新しいカテゴリーである社会人登山家としての道を切り拓き、六甲山地や日本アルプスを疾風のように踏破した”単独行の加藤文太郎”の愛と孤独の青春を綴った新田次郎の最高傑作で山岳小説の最高峰。
《おすすめポイント》
個人的には登山小説では1番のおすすめ作品で、山好きの方には一度は読んでもらいたい作品です。
加藤文太郎の超人的な健脚(六甲全山縦走を含めた100kmの行程を約20時間で完歩、厳冬期の北アルプスも単独行で現代の夏のコースタイムで歩くほどのスピード)や、日常から孤独に徹し、エベレスト登頂の夢を叶えるために試行錯誤して己の技術を高めていく飽くなきチャレンジ精神など、不器用ながらも純粋に山を求める主人公の心の美しさに魅了されます。
新田次郎の山々の描写も美しく、活字から北アルプスの美しい情景が頭の前に広がります。読み終わった後には加藤文太郎に思いを馳せて、六甲山地や北アルプスの山々を歩きたくなります。
氷壁/井上靖
奥穂高の難所に挑んだ小坂乙彦は、切れる筈のないザイルが切れて墜死する。小坂と同行し、遭難の真因をつきとめようとする魚津恭太は、自殺説も含め数々の憶測と戦いながら、小坂の恋人であった美貌の人妻八代美那子への思慕を胸に、決別の単独行を開始する。
実際に起こった山岳事故を題材に、完璧な構成のもと、雄大な自然と都会の雑踏を照合させつつ、恋愛と男同士の友情をドラマチックに展開させた山岳長編小説の金字塔。映画化、ドラマ化もされた名作で、上高地の徳澤園は現在も『氷壁の宿』の名を掲げ、作品の舞台として多くのファンが足を運びます。
《おすすめポイント》
昭和32年刊行のため、語り口は古いものの、読み始めると卓越したリアリティも手伝って、小説の世界に一気に引き込まれます。恋愛の繊細な心理描写と社会的スキャンダルを起こした時の世の中の雑踏が動かす人間ドラマは、現代にも共通する秀逸な描写です。前穂高や奥穂高に登る前にも、または登った後にも読みたい珠玉の名作です。
青春を山に賭けて/植村直己
日本人初のエベレスト登頂を始め、世界で初めて五大陸最高峰の登頂に成功。国民栄誉賞を受賞した冒険家・植村直己の夢と勇気に満ちたケタ外れな世界放浪記。
植村さんの名言として知られる「五大陸の最高峰に登ったけれど、高い山に登ったからすごいとか、厳しい岩壁を登攀したから偉い、という考えにはならない。山登りを優劣でみてはいけないと思う。要は、どんな小さなハイキング的な山であっても、登る人自身が登り終えた後も深く心に残る登山がほんとうだと思う」も本書で語られています。野口健さんがこの本を読んで山登りを始めるきっかけになった一冊。
《おすすめポイント》
自分の登山の冒険自慢が馬鹿馬鹿しく、恥ずかしくなるほどスケールが大きい大放浪記。「登山は自分のために登るから楽しい」という言葉が、まるで肉声のように聞こえてきます。
還るべき場所/笹本稜平
世界第2の高峰、ヒマラヤのK2。未踏ルートに挑んだ翔平は登頂寸前の思わぬ事故で最愛のパートナーである聖美を失ってしまう。事故から4年、失意の日々を送っていた翔平は、アマチュア登山ツアーのガイドとして再びヒマラヤに向き合うことになる。パーティに次々起こる困難、交錯する参加者の思い….。傑作の山岳小説!
《おすすめポイント》
主人公の翔平が山に戻り再び生きる力を取り戻すまでの葛藤、実業家神津の俗世にまみれた権力争い、同じくK2で仲間を失った竹原の心の傷など、登場人物の設定や個々のドラマが上手く構成されてストーリーに厚みが出ています。筆者のアルピニズムに対する調査力も素晴らしく、カラコルム山脈の絶景やシーン毎の臨場感がリアルに伝わってきます。
クライマックスの標高8000mで起こる度重なるアクシデントでは息を呑むシーンが続き、聖美の死の真実を解き明かすミステリー要素も加わり、秀逸なラストへと繋がります。
最後まで絶望せず生きて帰るために全力を尽くす登山家たちの絆に大感動の一冊です。
平出和也さん、中島健郎さんを偲んで読まれるファンも多くいらっしゃいます。
春を背負って
山岳小説『還るべき場』などで有名な作家笹本稜平の作品で、甲武信ヶ岳、国師ヶ岳周辺の奥秩父山域の山小屋が舞台の山岳小説です。
脱サラをして父の山小屋の後を継いだ主人公。そんな山小屋に訪れるのはホームレスや自殺願望のOL、妻を亡くした老クライマー。美しい自然に囲まれたその小屋には、悩める人々を再生させる不思議な力が…。人と山が繋がる心癒される山岳小説の新境地。2014年には『剱岳点の記』の監督木村大作により映画化されています。(※映画は立山連峰が舞台)
《おすすめポイント》
人と人の繋がりが山の稜線のような美しさを感じさせてくれる短編登山小説です。1話目の「春を背負って」を読み終えたところで、このタイトルがいかに素敵かがわかります。2話目の「花泥棒」と5話目の「擬似好天」は更なる名作で、山好きの方は絶対に好きになるストーリー。小説で泣いたのは何年振りかなってくらい、久しぶりに涙が溢れました。さりげない伏線回収も秀逸。山小屋を営んでいる方々にありがとうと伝えたくなる作品で、現代版登山小説では一押しの秀作。
埼玉県ゆかりの山の本
本サイトは埼玉県の山を紹介するサイトですので、埼玉の山ゆかりの本も紹介します。
埼玉県の山
山と渓谷社が発行する定番の分県登山ガイドの埼玉版。約60座の埼玉の山が紹介されている、埼玉の山を愛する者のバイブル本!一家に一冊買い置くだけで、埼玉県の山通気分になれます。シリーズ累計200万部突破の大ヒット商品です。
山と高原地図/奥武蔵・秩父 武甲山
こちらも大定番の登山地図。山と高原地図の埼玉版です。奥武蔵山域から秩父、武甲山など、この地図一冊で埼玉県内の山域の主要コースを網羅できます。一冊買えばずっと使えるので、埼玉の山歩きではずっとザックに入れっぱなしにおきたい一品。
私には山がある
女性で世界初の世界最高峰エベレスト8,848mに登頂。また女性で世界初の7大陸最高峰登頂を成功した田部井淳子さんの本で、癌と闘いながら生涯現役を貫いた女性登山家としての半生が語られています。
死没まで埼玉県川越市に40年近く住まれた(出身は福島県)ことから埼玉県と縁が深く、数々の功績から1988年に埼玉県初の埼玉県民栄誉賞と川越市初の川越市民栄誉賞を受賞しました。日高市の日和田山登山口駐車場には田部井さんを偲ぶ記念碑が建てられています。
《おすすめポイント》
女性の地位がまだまだ低かった昭和当時、周囲からは「女がエベレストに登頂なんてできるか」「子供より山が大事か」と言われながらも、やると決めたらどんな困難も乗り越えてミッションを達成する不屈の精神は圧巻。エベレストでの雪崩からの生還や、最終アタックでのナイフリッジからヒラリーのチムニー越えまでの壮絶な登攀談も息を呑みます。夫の政伸さんと一緒になる際のお母さんとのエピソードや、子育てとの両立の話なども楽しく読ませてもらいました。
ヤマノススメ
主に埼玉県の飯能市を舞台にした登山マンガ。人付き合いが苦手な主人公のあおいは、同級生のひなたに「一緒に山へ行こうと」と誘われます。このひたなとの再会をきっかけとして、あおいが幼い頃に見た山頂での来光を再び目にすべく、登山に臨む物語。
もはや飯能市のソウルマンガの立ち位置を確立し、飯能のイメージアップ戦略として、聖地巡礼ツアーやスタンプラリーなといったイベントも活発に行われ、飯能の振興を支える作品となっています。国内だけではなく、海外からファンが訪れるほどの国際的大ヒット登山コミック。
以上、管理人おすすめの登山本でした。
山登りのお供に本を一冊ザックに忍ばせて、山頂でのんびり読書でもいかがでしょうか。